2021年 05月 06日
読書記録「対極」 |
読書記録 鬼田隆治「対極」
抄録は以下の通り。
『警察小説史上最凶のアンチヒーロー誕生!
警視庁には二つの特殊部隊が存在する。
SAT(Special Assault Team,特殊急襲部隊)とSIT(Special Investigation Team,特殊犯捜査係)。
それぞれ指揮系統は違うが、現場を同じくすることも多い。
合法的に暴れるためにSATに志願した“悪童”中田、異例の抜擢を経てSIT係長になった “エリート”谷垣、立場も性格も信条もまるで異なる二人は、現場で衝突を繰り返しながらも、「厚生労働省解体」を宣告する謎のテロ集団と対峙する。
圧倒的な熱量を発する、前代未聞のポリス×ピカレスク小説。』
第2回警察小説大賞とのことで読んでみました。
最大の難点は抄録にもある”「厚生労働省解体」を宣告する謎のテロ集団”でしょう。
最初はなんかのレトリックだと思っていたのですが、なんと、そのまんま。
いくらなんでもこんな動機でテロを実行するのはありえません。
単純に言えば、単なる逆恨みなんですから。
強いてあげれば三島由紀夫の切腹パフォーマンスが浮かぶくらい。
それくらい現実離れしています。
まぁ、オウム真理教も、そういう意味では浮世離れしていたので、可能性としてゼロではないでしょうが
ならばより現実性を感じさせる何かがほしいのですが、本作にはそれがありませんでした。
さらにいえば、人質をとって、銃で脅してという方法を、果たして”テロ”と呼んでいいのかどうか?
この場合の”テロ”は、テロリストの”テロ”と、飯テロの”テロ”の中間ぐらいの軽い意味に成り下がっています。
”テロ”というのなら、もうちょっと規模が大きくないと小説の中のテロとしては、成り立っていない気がします。
まぁ、それが成り立つとして、警察小説としてどうか?となると、これもまた微妙です。
SATの隊員が訓練中に他国の訓練生を殺したり再起不能にする、というのはいくらなんでもやり過ぎでしょう。
こんな訓練に自国のエリート隊員を送り込む国があるはずがありません。
自国のエリート隊員が死んでもOK!というのんきな国があるとは思えません。
テーマはSATとSITというある種似たようなな組織に属してはいるが、対局にある二人の隊員の対立を描く、といえばいいのでしょう。
主人公であるSITの隊員は警察内エリートという設定で、まぁ、こんなタイプはいるだろうなと思わせますが
その”対極”にいるSATの隊員は、まぁ、こんなタイプはいないだろうと思わせてしまうので、完全な無理筋です。
もうちょっと工夫すればダークヒーロー物にでもなったかもしれませんが、その線で押しているようではありません。
その上で、非現実的なテロ事件。
警察小説というより、警察ファンタジーというちょっとバカバカしさも感じさせる作品です。
おすすめ度:☆☆(思ったより文章や構成は読みやすいので暇つぶしには最適です)
by k1right
| 2021-05-06 00:00
| 読書記録
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