2016年 04月 07日
読書記録「生還者」 |
読書記録 下村敦史「生還者」
抄録は以下のとおり。
『ヒマラヤ山脈東部で大規模な雪崩が発生。増田直志は、命を落とした兄のザイルが、何者かによって切断されていたことに気づく。兄は何者かによって殺されたのか。生還を果たしたふたりの男は、全く逆の証言をし…。』
これを読んでいる途中でこの著者別の作品をを読んでいたことを思い出し非常に後悔しました。
ブログに上げたつもりが、それすらしていなかったようです。
とにかくミステリとして酷い出来の作品でした。てっきりこれで終わると思っていたのですが・・・。
まず、なぜ山を舞台に選んだのか不可解です。少なくとも作中では山と山に登る人たちへのリスペクトが感じられませんでした。
ゆえに非常に読後感が悪いです。
メインの謎も、そもそもターゲットを冬期のヒマラヤという舞台で殺したいなら、そんなややこしい手を使う必要ないじゃないかというものです。しかも結果的に全滅とか間抜け過ぎます。
要は山関係者はみんな間抜け、という結果になってしまっているのです。
映像化を目論んだのかどうかわかりませんが、無理やり恋愛状況を持ち込んですべてをぶち壊した気がします。主人公もバカになっているし、女性ライターも途中まで誠実そうだったのですが不誠実になり結果的に嘘ルポを出しています。
そもそも穴埋め記事程度のライターだったはずですが、なぜか厳冬期ヒマラヤにアタックします。主人公はそのためにバイトを続けているというのに、あっさりと追随します。スポンサーもいないのに誰が費用を負担したのか曖昧です。それだと、そもそも大した費用負担じゃないんじゃないかということになってしまい、主人公の設定が意味不明になってしまいます。
そんな簡単に命を預けられるかな?というのが素直な感想です。
発端となったヒマラヤでの冬期登山、真冬の富士登山、厳冬期での犯人追走劇。
どれも、信頼関係もないのによく命を預けられるものだと感心しました。
そして、命がけで追う謎がそんなに曖昧でいいのか、と疑問に感じます。
そんなに曖昧なものによく命を預けられるものだと感心しました。
そして、ラストで都合よく雪崩が起きます。
というか、雪崩の巣に突っ込んでいって雪崩に遭うという、ある種必然的な事故が起こり、偶然のみで助かります。
これだったら全部偶然で済ませてもいいんじゃないか、とさえ思います。
担当編集者は何も言わなかったのでしょうか?
おそらく映像化するとより矛盾が明確化すると思います。
キャラ設定が場当たりなため、監督さんは苦労しそうです。
そもそも、311直前の、連日ワイドショーで取り上げられる遭難事故という設定で、映像化は難しそうです。
文章が下手、というより、プロットの組み立てが場当たりな気がします。
こう思わせていてそう、そう思わせていてこう、結果的にすべてがおかしくなっていくのです。
小さな裏切りを繰り返すことで、全体像がどんどん歪んでいくことになります。
ゆえにキャラ設定が移ろいでいきます。
結果的に文章はあまりうまくないのかもと思いました。
山の美しさも怖さも、雪崩の冷たさも恐怖も全く伝わってきませんでした。
真保裕一の「ホワイトアウト」のような、もしくは
A.J. クィネルの「メッカを撃て」か「ヴァチカンからの暗殺者 」だったかの牛乳のタンク車で真っ白+上下左右天地不明という、真っ白な中の恐怖が全く伝わりませんでした。
決して文章が下手なのではなく、下調べが雑で、思い入れがないのではないかと感じられました。
おすすめ度:☆☆☆☆☆(誰に薦めていいものか・・・?最近の山岳モノは意外と良作が少ないような気がします)
※最近外れ続きで少し凹みます。現在のストックも期待薄。
おすすめ度:☆☆☆☆☆(山岳モノとしてもダメ、ミステリとしてももっとダメ)
by k1right
| 2016-04-07 00:00
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