2015年 09月 29日
小田嶋隆氏がソフトウェアエンジニアへの独自の意見を述べる |
2015/09/28のTBSラジオたまむすびの「小田嶋隆の週間ニッポンの空気」で小田嶋氏がソフトウェアエンジニアへの独自の意見を述べられていたので、その部分を抜粋しました。
以下、当該箇所の書き起こしです。
-中略-
赤江「さぁそしてこちらも大きな問題となりました。ドイツ自動車大手のフォルクスワーゲン社が排ガス規制を不正に逃れていた問題についてですが、世界で1100万台がリコールになるかもしれないというニュース、この問題について小田嶋さんの考えをご紹介します。
『報道された記事を一通り読んでみると、
フォルクスワーゲンの不正はエンジン本体の問題ではありません。
エンジンを制御するソフトウエアに不正なプログラムが挿入されていた事による不正です。
もう少し具体的に言うと不正プログラムは排ガス試験のために、
テスト用の車体に載せられたことを関知すると試験の時だけ
排出ガス浄化機能をフル稼働できるというものでした。
それにしてもよくわからないのは、排ガスの試験の時にだけ排出ガスをクリーンにするという、ある意味で非常に高度なプログラムを作るだけの能力を持ったエンジニアが、どうしてエンジンの排気そのものを根本的に改善できなかったのか、ということです。
そこで思うのは、エンジニアのモラルの問題です。
私のような素人でも液晶画面上の理論上の作業であるプログラム作成とリアルなブツとしての鉄を扱うエンジン開発が、その成立と発展の歴史からして全く別立ての技術であることはなんとなくわかります。当然個々の技術者のマイスターとしての誇りや心構えも鉄を叩き上げるエンジニアとコードを弄くりまわすプログラマでは全く違っているはずです。
自動車工業はちょっとした設計ミスや施工の粗雑さが人命に関わる事故を招く産業です。だからこそ不正や不良品には巨大な制裁金が課されることになっています。
翻ってIT産業及びそれを支えるプログラミング技術は、バグ、ミスとの共存を前提として歩んできた業界です。商品として市場に流通している最終製品でさえ、バージョンアップと称する事実上の有償修理を織り込んだ上で販売されています。』
たしかに仰るとおり、全く違う歴史で成り立ちですね。
『今回の不正はプログラムを作る人間が路上を走るエンジンの性能を上げることよりも目前の課題をクリア、である排ガステストをクリアすることにターゲットを置いた結果生まれた悲劇なんだと思います。
してみるとIT産業のエンジニアやメーカーが自動車産業に乗り出す近未来は割と怖い世界なのかもしれません。』
そうなんですよね、今回、これは凄く悪質だなと思ったのは、ちょっとした間違いでこうなったんではなく、わざわざそんとき用の不正プログラムを作っていた」
小田嶋「プログラムを作る人間って課題があった時に、それを処理するとかいう気持ちで作っていますから、だから、なんか、問題回避だとか、解決だとか、あるいは裏技だとか、違う方向から、こっちからやればいいじゃんみたいなことで、プログラムって進んでいくもんではあるんですが、だから、あんまり、こう、なんていうんでしょう、目先の、エンジンそのものの技術を向上させなくても、テストクリアすればいいじゃん、みたいなことが、もしかしたら、あるのかもしれない。
実際のブツを作っているクラフトマンシップっていうんですか、
エンジン技術だとか、工業技術の、要するに、マシナリーな、要するに、機械工業の側の技術者っていうのが、ちょっと強度が不足していたり、施工がいい加減だったり、組み立てに甘さがあっただけで、人が死ぬじゃないですか、ああいうものって。
だからすごく最後の最後まできちっと作るんですけど、プログラマって、なんていうんですか、そういう気持ちで、物作ってないですよね、元々は画面の上で動くものですから。
だからそこのところで差がちょっとあったんじゃないかっていう気がしますね。」
赤江「そこの過程での差は大きいですね、まったく産業として別物だったものが、今や一緒の一つの作品」
小田嶋「プログラムが実はエンジンを動かすようになってきてしまっている現状に、プログラムを作る人間のマインドセッティングという気持ちが追いついてきていないのかもしれない。
これはだからこれはフォルクスワーゲンに限らず、色々なメーカーでももしかしたら起こりうる話だから、引き締めないと行けないところがあるかもしれないですね」
竹山「技術の違いってのがあるからチェックがなかなか難しくなりますよね」
赤江「そうですね」
小田嶋「実際、パソコンなんかだとね、ソフトウエアもそうだし、OSもそうだし、完成しましたってお金出して売っているものの中にを、はい、欠陥が見つかりました、っていうのが山程あることなんですよ。
しかもそれを、治すのに車だったら欠陥がありましたって言ったらリコールっていって無償で回収して治して賠償金払って、全部ただで直さなければいけない話なんだけど、プログラムだとパッチプログラムをダウンロードして直してくれって、そういう世界でしょ、自分が勝手に治す、という。で、お詫びでも何でもなく欠陥と呼ばずに脆弱性とか変な言葉を使ってたり」
赤江「そういうもんなんです、っていう」
小田嶋「実は、デジタル技術ってそういうふうに発展してきちゃって
ユーザもそれを受け入れているんですよ、ああなんだ今度できが悪かったとか、
最初のバージョンだから人柱だよとかみんな買ってるじゃないですか。
だけど車でそれをやられちゃたら敵わないわけですよ」
赤江「しかもそれ、その試験の時だけクリアにするようなものって、ものすごくわざとじゃないですか、悪意、悪質ですよね」
小田嶋「これ、でも、でかい話で」
赤江「1100万台リコールですよ。」
小田嶋「これ、世界の景気に与える影響だとかね、ドイツ経済に与えるインパクトとか、あと、もっと大げさな話をするとドイツが今EUや世界をリードしている、
あるいはエコみたいなところで主導的な国だったでしょ、それがちょっとヒビが入ったりするじゃないですか、だからそういうところでドイツに対して、今まで日本でもそうだし、ヨーロッパでもアメリカでも、ドイツが経済的に一人勝ちで、なおかつ色んな所で戦後賠償でも、原発を一人だけやめているとか、あと、世界の色んな所で、技術やらエコへの取り組みなんかでも優等生で、一人だけいい顔しやがってていう気分があるぞっちうのが割と指摘されてたんです、エマニエル・トッドていうフランスの経済学者さんが、ヨーロッパに反ドイツ主義が広まっているよっていう本を去年出したりして
それにぱっくりハマるような話ですから、ちょっとそうなっちゃいと嫌ですよね。」
赤江「違うところでも余波としてね、影響を及ぼしてしまうのかもしれません。」
竹山「問題だ、こりゃ」
2015/10/08追記
『小田嶋:早稲田の大学の連中と西武の堤が裏でつるんで、西武線沿線に何かを作るつもりでいる、と。革マルが反対していましたよ。…あっ、とですね。実は今日、ラジオの収録が午後からあるんですよ。ですから俺はそろそろ失礼しなければならない。
え。こちらはロケハンが始まったばかりだと思っていましたが。
小田嶋:いや、あのですね。あれは生番組っぽいものなので……と、こう(歯切れが悪い小田嶋さん)。』
by k1right
| 2015-09-29 00:00
| TBSラジオ
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