2014年 11月 10日
読書記録「波形の声」 |
読書記録長岡弘樹「波形の声」
意外なほど本格志向だったことに驚いた。
前作の「教場」は警察内部のドロドロ人間関係系だったから、
割りと人間関係を軸にして、その関係性から話を発展させていくタイプだと思っていたら、トリックを軸にした本格テイストの濃い短篇集だった。
では、それが奏功しているかというと微妙。
表題の一作目でこの本の全体のイメージを体現してはいて、その後の作品もそれに追随し全体のトーンは統一されている。トリックを軸にするとトリックがメインであるがゆえにトリックに依存し作品感の関連性が精薄になりがちであるが、トーンは統一されており、ごちゃごちゃした感じもない。
うまい、というか老成しているというか・・・。
トリックが解けた時のスッキリした感じが薄いのはそのせいかもしれない。
佳作である。が、傑作ではない。決して駄作ではなく退屈させない。
文体もこなれていてスッキリしている、というかスッキリしすぎていて淡白な印象もあるが、自分はねちっこいのが大嫌いなので、これはこれでOK。中編だと主人公が過度に内省している暇がないせいでもある。本格志向の人は中編でもっとも力が発揮されるケースが多いように思う(ex.有栖川有栖、法月綸太郎とか)。代わりに”人間が描かれていない”など批評家連中から避難されることも多いが、そんなのは純文学に任せて結論がスパッとしていて構わないのだ。
しかし”驚天動地”のトリックが展開されるわけでもない。
なんとも評価が難しい作品である。
おすすめ度:★★★☆☆(万人向けだが、何処をターゲットとしているかは曖昧)
by k1right
| 2014-11-10 00:00
| 読書記録
|
Comments(0)